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2004年10月08日
金木犀の香り
区民プールに泳ぎに行った帰り、
西日の差し込むバスに揺られていた。
途中の駅から、小学校低学年くらいの兄弟と、
そのお母さんが少し離れた席に座った。
お揃いのジージャンを着ていて、
すごく可愛い。
お母さんは上品な服装で、
知性を感じさせる綺麗な人だ。
静かなバスの車内に、
兄弟のお兄ちゃんの方が
お母さんに話しかける声が響く。
「あの花、なんていう名前?」
窓の外を指差しているが、
走っているバスからでは
そんなに正確に指させない。
「あのオレンジ色のちっちゃい花」
「十字みたいな形で、いい匂いがするの」
ああ、わかった。
金木犀だ。
今咲いているもんね。
次々に明確な特徴を言えて、
この子、頭いいな。
ところが、
お母さんはなかなか答えてくれない。
「ねえねえ、なんていう名前?」
男の子は興味津々のクリクリした目で訊く。
バスの放送が流れる。
「次は、ユリの木公園です」
お母さんは仕方なく答えた。
「ここは“ユリの木公園”だから、ユリの木よ」
そんなぁ!
明らかに金木犀なのに。
確かに窓の横の遊歩道には、
ユリの木が並んでいる。
けれど、葉が少し黄色くなりかけていた。
花なんて咲いていない。
このお母さんは、金木犀を知らないのか、
それとも特徴を聴いていなかったのか。
わからないなら「わからない」と言わないと。
今年も金木犀の香りが漂い始めた。
ふとこの良い香りと一緒に、
去年のバスの中の記憶が蘇った。
私の脳の引き出しには、
金木犀と西日のバス車内の歯がゆい思いが、
セットでインプットされているらしい。
投稿者 mamiko : 01:03